鉄道と同じく、高速道路にも上りと下りがあります。
そして、これも鉄道と同じく、どっちが上りでどっちが下りなのか、高速道路でも混乱が発生します。
日本の首都・東京に向かう方向が上りだと認識している日本国民は、実に多いでしょう。
しかし、では地方の中だけで完結する路線の上り・下りの見分け方は、どうなるのでしょうか。
もちろん、東京に向かう方向が上りという定義は、だいたいの場合は当てはまります。
そこで今回は、高速道路の上り・下りの定義について、鉄道との違いもふまえながら確認していきましょう。
高速道路の上り・下りの見分け方がわかれば、日々のドライブが少し楽しくなるかもしれません。
Contents
高速道路における上り・下りの定義
高速道路の上り・下りの定義は、法令で定められているわけではなく、便宜的に使われているものにすぎません。
しかし、上り・下りの見分け方の基準は法令で定められているという、少々ややこしい事情もあります。
*高速道路と鉄道の上り・下りの違い
軽自動車と普通自動車の間に位置する小型自動車を、世間一般でコンパクトカーと呼ぶ慣行があります。
同様に、上り・下りという呼び方は慣行にすぎませんが、その基準は法令上一目瞭然なのです。
高速道路も鉄道も、上り・下りを定義する際は、その路線の起点(始まり)に向かう方向を上り、逆に終点(終わり)に向かう方向を下りと呼びます。
そして、路線の起点と終点については、法令に根拠を求めることができます。
鉄道の場合は、鉄道事業法という法律で、鉄道事業者として許可を受けようとする際に、起点と終点を定める必要があります。
そして高速道路の場合は、その路線の位置づけによって根拠法令が異なるため、一概には言えなくなりますが、建設段階で起点と終点は定められます。
そのため、手間はかかりますが、どっちが上りでどっちが下りか明確に定義することは可能です。
*高速道路の上り・下りの特殊性
鉄道と高速道路では、大きな違いもあります。
鉄道は戦前からの長い歴史を持っていますが、高速道路は戦後に誕生した新しいインフラです。
戦前は、とにかく東京が日本の中心という意識が今より強く、東京に近い地点が起点になるという暗黙の了解があったようです。
世間一般の「上り=東京方面」という認識は、戦前から受け継がれたわけです。
しかし、高速道路は戦後に誕生したインフラのため、そうした「常識」とは基本的に無関係です。
特に、地理的に複雑な路線である場合など、起点と終点の意味があまりない場合もあります。
たとえば、東北中央自動車道は、福島県相馬市から山形県内を通り、秋田県横手市までを結ぶ路線として今も整備が続いていますが、上り・下りの違いは一部でしか意味がありません。
なぜなら、起点は福島県相馬市ですが、相馬市の人から見れば内陸の福島市に向かう方向を上りと定義することも可能なため、上り・下りの表現は混乱を招くだけなのです。
*高速道路の上り・下りの基本的な見分け方
高速道路が地理的に複雑な路線となり、どっちが上り・下りかの定義も無意味になりやすいのは、根拠となる法令によって路線名が異なり、起点と終点を定めにくいからです。
たとえば、宮城県仙台市と岩手県宮古市を結ぶ三陸縦貫自動車道は、実は多くの路線の集合体で、一部では管理主体も異なります。
一例として、仙台港北IC~利府中ICは仙塩道路と呼ばれ、管理主体はNEXCO東日本ですが、利府中IC~鳴瀬奥松島ICは仙台松島道路と呼ばれ、管理主体は宮城県道路公社です。
そして、鳴瀬奥松島IC以北の管理主体は国土交通省になりますが、いくつもの路線に細分化されています。
このように、世間一般では一括して呼んでいるのに、法令上は複雑な事態に陥っている高速道路は少なくありません。
そのため、もはや上り・下りの違いをはっきりさせるよりも、「~方面」と呼ぶ方が手っ取り早い場合の方が多くなっています。
ただ、どうしても見分け方を知りたいという場合は、東京に近い地点へ向かう方向を上りと定義すれば、たいていの場合は外れません。
高速道路の上り・下りのケース・スタディ!
あまり理論的な検討ばかり加えても意味がないので、今回は最後にケース・スタディを行いましょう。
高速道路の実際の路線を検討することで、上り・下りの見分け方がどこまで有効で、どっちがどっちと定義することがいかに無意味かも明らかとなるでしょう。
*上り・下りの基本的な見分け方が当てはまる例
本州内の高速道路であれば、どっちが東京方面という見定めもしやすいので、基本的な見分け方は当てはまります。
もちろん、先ほど触れた東北中央自動車道や、東京方面に対してほぼ平行に走る北陸自動車道のように、例外はあります。
また、北海道や九州、四国の場合は、本州に近いポイントに向かう方向を上りと表現して間違いないでしょう。
北海道であれば函館方面、九州であれば北九州方面、四国であれば3つの連絡橋方面という具合です。
このような基準であれば、上り・下りを定義できる高速道路の方が多いかもしれません。
*上り・下りの違いがわかりにくい例
上り・下りの違いがわかりにくいのは、方向が意味をなさない高速道路です。
代表例が環状道路で、首都圏であれば北関東自動車道、首都圏中央連絡自動車道、東京外環自動車道が当てはまります。
同じような環状道路は名古屋や仙台等でも建設されています。
また、首都圏や阪神圏、名古屋、広島、北九州、福岡の各都市には都市高速道路が建設されていますが、上り・下りの定義は全く意味を持たなくなります。
これらの高速道路の場合は、地域名(千葉、横浜、さいたま等)やIC名を用いて「~方面」と表現することがほとんどになります。
そもそも、首都圏はもちろんですが、大都市はその地方の中心なので、上り・下りではなく「~方面」と呼ぶ方が適切とすら言えるのです。
*上り・下りは感覚的に判断してOK?
今回は高速道路の上り・下りの見分け方がテーマですので、定義をめぐってあれこれ検討してきました。
しかし、話をひっくり返すようで申し訳ないのですが、正直どっちでもよいのではないでしょうか。
と言うのは、鉄道と高速道路の違いはすでに述べた通りですが、戦後の新しいインフラである高速道路は、そもそも首都・東京への連絡が唯一の目的ではないからです。
都市高速道路や環状道路を見れば明らかですが、高速道路は地域間の連絡を担うインフラなので、上り・下りの違いなど最初から重要ではないのです。
戦前の鉄道における発想を引き継いだ方々が、戦後の高速道路にも同様の基準を当てはめようとしたのが、恐らく混乱の始まりだったと言えます。
どうしても上り・下りと呼びたいのであれば、東京に近い方向という基準で直感的に判断すれば、おおよそ間違いはないはずです。
たとえば、昔は日本の中心地だった京都にお住まいの方々も、今では東京方面を上りと呼ぶことに抵抗感はないようですので、日本全国に行き渡った基準と見て間違いはないでしょう。
高速の上り下りの見分け方【まとめ】
今回は、高速道路の上り・下りの見分け方が気になるという話を聞きつけ、そもそも定義はどうなっているのかという基本から確認しました。
おおよそ鉄道における考え方と同様ですが、鉄道との大きな違いは、起点と終点の意味が一層大きいということです。
高速道路の起点と終点、あるいはその成り立ち等を意識すると、日々のドライブがちょっと楽しくなるかもしれません。
地域の高速道路の歴史等を調べると、案外面白いはずです。